大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和30年(け)9号 決定

よつて、一件記録を調査するに、被保釈者黄清居は、同人に対する麻薬取締法違反被告事件について、昭和二十七年五月七日東京地方裁判所八王子支部がした保釈許可決定に基ずき、保釈保証金として金六万円(内三万円は現金、内三万円は保証書)を納付して、保釈されたものであるところ、同被告事件は、その後、昭和二十七年八月三十日東京高等裁判所第九刑事部が言い渡した破棄自判(懲役一年)の判決が昭和二十八年五月八日確定したので、その刑を執行するため、同人に対し、同年六月十八日、横浜地方検察庁検察官検事より収監状が発せられたが、同人の所在が不明のため収監するに至らなかつた事実、及びその後更に、同人の所在を捜査したけれども、発見するに至らなかつた結果、昭和三十年五月二十一日、東京高等検察庁検察官より、東京高等裁判所に対し、同人が逃亡し刑執行を遁れ居るとの理由で、保釈保証金没取請求をしたところ、同裁判所第九刑事部において、該請求を理由があると認めて、前示のような原決定をしたものである事実が認められるのである。しかるに、所論は、右黄清居は、昭和二十八年十月二十九日、第三次華僑帰国船で帰国したものであつて、刑執行のため呼出を受けて出頭しないことにつき正当な理由があるものであり、又、逃亡したものでもないから、原決定は違法である旨主張するにより、案ずるに、刑事訴訟法第九十六条第三項には「保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。」と規定されていることは、所論のとおりであつて、本件異議申立書に添附されている証明書と題する書面の写には、右黄清居が、一千九百五十三年十月二十九日第三次華僑帰国船で帰国したものであることを証明する旨の記載が存するのであるが、しかし、昭和三十年六月十一日附で検事金子満造より送付にかかる電話聴取書(送話者入国管理庁登録課分室山田事務官、受話者東京高検浜田事務官)の記載に徴するときは、前記黄清居が正式に帰国したものであることについては、我が国の当局官憲において、これを確認していない事実が認めえられるのであるから、前示証明書と題する書面の写に記載されている内容は、たやすくこれを信用することができないものというべく、他に同人が正式に帰国したものであることを確認するに足る証左はみあたらないのである。してみれば、右黄清居は、結局逃亡したものと認めるの外ないのであるから、同人は、正に、前示刑事訴訟法第九十六条第三項後段の場合に該当するものというべく、従つて、同人に対し、同法条を適用して、前掲保釈保証金の全部を没取した原決定は正当であつて、本件異議の申立はその理由がないから、刑事訴訟法第四百二十八条第二、三項、第四百二十六条第一項後段に則り、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!